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JAZZ Life助走編

サックスと楽譜
1. サックスと楽譜

 

サックスでジャズナンバーを自由に吹きこなすまでの道のりは長い。目標はアドリブができるようになってスタンダードナンバーのセッションに参加することだが、それ以前に色々な事をマスターする必要がある。まずは簡単な楽譜を読んでそのまま吹けるようになることが肝心だ。そのための一つとして純粋に音楽的な教養の習得があり、もう一方にサックスを扱う技術の習得がある。それらを易しい部分からステップ・バイ・ステップで習得していく。先は長いが「急がば回れ、そして善は急げ」だ。着実に基礎を固めることが夢をかなえることになると思う。

 

サックスを演奏する前提として音楽の知識が若干必要となるが、中学校レベルの知識があれば十分だ。といっても中学校の音楽授業を全く忘れてしまっているので復習が必要だ。少なくとも楽譜を読めるようにしておこう。最初は目印となる音から五線譜を数えて音階を探る方法でいい。サックスの練習では楽譜を何度も見るようになるので、そのうち一目見れば音階が分かるようになるそうだ。

 

楽譜を見る前提としてサックスは移調楽器であることを理解しておく。つまり、サックス用の楽譜に書かれている音符と実音は異なり、アルトサックスにはアルトサックス用の楽譜があり、テナーサックスにはテナーサックス用の楽譜がある。アルトサックス用の楽譜の左上を見ると(in E♭)と書かれている。つまりアルトサックスはE♭を基調としている。だから好きな曲の楽譜を買う時にはアルトサックス用の楽譜であることを確認して購入する。5種類のサックスを音程の高い方から順に並べると次のようになる。サックスの種類は多いが一般的なサックスの基調としてはE♭とB♭しかない。テナー奏者がソプラノを持ち替え楽器にするのは同じ楽譜で演奏できる事も一つの要因になっている。

  • ソプラニーノ (E♭)

  • ソプラノ (B♭)

  • アルト (E♭)

  • テナー (B♭)

  • バリトン (E♭)

 

ピアノ伴奏で吹くアルトサックスの楽譜を見ると、アルトサックスのパートはE♭基調で書かれていてピアノ伴奏はC基調で書かれている。したがって普通に楽譜を見る上では基調を気にする必要はない。ただしピアノで音程を合わせるときには基調の違いを意識することになる。具体的には、アルトサックスで中音域のドを出すときはピアノではミのフラットを弾くことになる。ピアノの前でアルトサックスの音を出していると、吹いた音階の実音にピアノが共鳴して鳴ることが分かる。電子ピアノだと移調機能が付いているので、アルトサックスの楽譜で音を確かめたいときは電子ピアノを移調すると便利だ。

上段がE♭を基調とするアルトサックスの音階、下段がピアノを含む実音楽器の音階だ。

アルトサックスで実音と同じ音を出そうとすると6度上の音を吹くことになる。

最初に覚えるドレミファソラシドはCメジャースケールといわれる最もオーソドックスな音階だが、他にもたくさんの音階がありシャープやフラットの音が出てくる。ある音にシャープが付くと半音上の音を示していて、フラットが付くと半音下の音になる。これをサックスで吹くための運指を覚える必要がある。音楽経験のないものとしてはシャープやフラットに対する抵抗感がある。しかしシャープやフラットの付き方には論理性があり、これを理解することが心理的プレッシャーの克服になると思う。

 

シャープやフラットを理解するにはピアノの鍵盤を見るとよい。近代音楽は数学的に見ると規則性があるので、その規則性をピアノの鍵盤でもって可視化してみよう。楽譜上の音符はいったんピアノの鍵盤に置き換えると明確になる。楽譜上での1度の音程差は一定ではなくミ‐ファ間とシ‐ド間は半音でその他は全音の差になっていることが、ピアノでは黒鍵の有無によって理解できる。

 

後々アドリブを行うためにコードとスケールを勉強することになるが、これもピアノ鍵盤上で考えると規則性が理解できる。メジャーコード、マイナーコードやセブンスなども鍵盤上で印を付けてみるといい。移調する場合もシャープやフラットの付き方についての規則性もピアノ鍵盤でみるとファ‐シ間とド‐ミ間の黒鍵を交互に拾っていることが分かる。

 

1オクターブの中にある黒鍵の数は5個しかないので、シャープやフラットが付くことによって使う音程は新たに5種類を覚えることになる。例えばシ♭とラ♯は同じ音だ。またシ♯はドの音と同じになる。実際のサックスの演奏は少しややこしくなっている。シ♭(ラ♯)の運指は普通でも2種類を使い分ける。その理由は前後の音との流れの中での指の使い方が難しくなってしまうためだ。ただし替え指については何もシャープやフラットに限ったものでもなくその他の音についても替え指を使わざる得ないことがある。

 

楽譜上でシャープを一つずつ増やしていったときにピアノ鍵盤上で見ると3つ並んだ黒鍵と2つ並んだ黒鍵を順番に拾っていることが分かる。フラットの場合も同様の規則性を持っている。鍵盤の図でシャープとフラット音階の下にある数字は楽譜上でシャープやフラットが付く順番を示している。楽譜上で6個目と7個目になるシャープやフラットはシ‐ドとミ‐ファの半音域にあるので隣の白鍵に移ることになる。

楽譜を歌おう
2. 楽譜を歌おう

 

サックスを演奏しようとする誰しもが早く上達して素晴らしい演奏をしたいと思っているはず。そのために練習をする。練習せずに上達はない。サックスに限らず楽器演奏には、楽器を演奏するためのフィジカルな上達と音楽のイメージを形作る脳内の上達が必要になる。練習ではフィンガリングやアンブシュアなどに意識が行きがちだが、脳のトレーニングもかなり重要だ。極端な言い方だが、音楽は脳で演奏している。音楽を感じるのは脳だが、演奏は体中の筋肉を動かす運動と同じだ。この二つを融合できて演奏が上手くなる。

 

サックスの練習マニュアルではフィジカルな面でのカリキュラムが中心となっているが、脳のトレーニングも意識して行うのが良いだろう。脳内の演奏回路がショートサーキットとして確立されればフィジカル面でも上達がスムースになる。楽曲を練習するとき、まず楽譜を見て音階を判断する。そして、その音階と一致する運指と適切なアンブシュアを決定して、タンギングおよび息を出す。最初は、この一連の動作を考えながら行っている。しかし、それでは早い曲では追いついていけずミスを生じる。なぜならば、瞬時に行うことが多すぎて時間内に処理できず脳がパニックに陥ってしまうからだ。このレベルの演奏スキームをビギナーズ・スキームという。

 

ビギナーズ・スキームに対比して、熟練者の場合は楽譜を見た瞬間に意識せずにフィジカルへの命令が発信される。つまり、脳内にサックス演奏に対するショートサーキットが確立されていて、一々演奏者の意識レベルでの脳活動が必要とされない状態となっている。この状態での演奏スキームをエキスパート・スキームという。このショートサーキットの中心は脳内で鳴る音楽だ。脳内の音楽イメージとフィジカルの脳内分野が共感しているため自然と指や口が動いている。

 

ビギナーズ・スキームから脱却して、エキスパート・スキームに移行することが脳のトレーニングの目的だ。このスキームの違いが一番良く分かる例は自転車の運転だ。最初はぎこちなくハンドルを操作しつつべダルを踏みバランスを取る。しかし、スムースに運転することは出来ない。幾ら練習してもビギナーズ・スキームのままだ。しかし脳の中では徐々にではあるがショートサーキットを構築し、ある時ショートサーキットが繋がる。すると今まで難しかった自転車の運転が楽にできるようになる。サックスも同じだ。練習でいつも上手にできず落ち込んでしまうが、その裏では脳がショートサーキットを作り続けている。努力していると、いつかエキスパート・スキームに移行することを信じて練習を進めよう。

脳の中には音楽そのものを感じる右脳と演奏を掌る左脳が互いに連絡し合って体を動かしている。演奏しようとしている楽曲は、参考となる演奏を聴くことによって耳から入る。これが脳の中で演奏イメージとなる。

そのイメージを目指して、左脳が懸命に演奏するための命令を作り上げる。楽譜を解釈して、それを運指に変換し、アンブシュアを指定して、タンギングのタイミングをとりつつ、吐く息の強さやスピードなどを決定する。

これらの命令が神経を通って体の隅々まで行きわたり具体化する。サックスを操作し吹き鳴らす。そして出てきた音や体感を脳にフィードバックする。脳では、そのフィードバックを分析して各命令を微修正する。

これだけのことを一瞬にて実施する大変な作業だ。この大変な作業を簡単に実施するためには、ショートサーキットを構築する。ショートサーキットが確立すると、無意識に演奏ができるようになる。さあ、練習を積んんで、ショートサーキットを確立しよう。

楽曲の練習では頻繁にミストーンをしてしまう。様々な原因が考えられるが、主な理由としてはビギナーズ・スキームの中で楽譜から運指への変換が間に合わないことが最初の原因だと考えられる。演奏するとき、楽譜から音階を理解してサックスの運指に変換する作業を瞬時に行うことになる。音楽のプロは楽譜を見たときに頭の中に音楽が鳴り響くそうだが、私の場合は頭の中には何も響かない。ビギナーズ・スキームにおいて左脳で音符を理解するステップが発生する。するとそのプロセスが曲の進行に追いつけず挫けてしまう。その部分の訓練として、楽譜を歌って覚えることにした。

 

歌詞についてだが、歌ものの曲には歌詞があるがサックス演奏が目的なので階名で歌おう。簡単に言うとドレミファソラシドで歌うことだ。これならば外国語の歌詞を覚えなくても歌えるが、課題も幾つかある。まず基準となる楽譜だが、アルトサックスを吹くのだからE♭が基調の楽譜を前提にする。そして、その楽譜で固定ドで譜面を読もう。ここで、固定ドとはアルトサックスのC音(ピアノのE♭)をドと読む方法だ。固定ドという言い方に対比して移動ドという読譜法がある。移動ドには前提としてスケールがあり、そのスケールでの主音をドと読む方法だ。どちらが良いかは色々と議論があるが、楽譜の速読をトレーニングするので先ずは固定ドで歌うことにする。

 

ただし将来セッションをするようになったときは、移動ドの方が便利だ。なぜならば移調して演奏する場合があり、移動ドで覚えていればスケールが変わっても対応できるためだ。例えば、ボーカルの人が今日は声が出ないので半音下にしてと言われても、あわてずスケールを下げて吹けば良いというのが理屈だそうだ。ただし、そのためには各種スケールを自由に吹きこなせるレベルに達することが前提となる。という訳で楽譜に慣れていない初心者としては固定ドで楽譜を歌うことにする。ただしスケール練習は移動ドで行っている。

 

階名で歌う、つまりドレミファソラシドで歌う場合、各音に対して発声は一音なので曲の流れに載せることができる。ところがシャープやフラットが付いたときに問題が生じる。例えばファ♯があるとすると、これをファシャープと歌ったら長すぎて曲に乗ることができない。そこで、シャープやフラットが付いている音に別の名前を付ける方法が開発されている。その起源としてはハンガリーの作曲家Kodaly Zoltan氏が考案したものがあり、それをもとに派生した色々な唱法が開発されている。それらは一般的にドディレリ唱法と呼ばれている。

 

USバークレー校でのドディレリ唱法では、ドレミファソラシのアルファベットをDo Re Mi Fa Sol La Tiとする。発音ではシがティになっている。このアルファベットを基準として、シャープを付けた場合は母音を"i"に変更して、フラットが付いた場合は母音を"e"に変更する。ただし元の母音が"e"の場合は"a"を用いている、つまりRe#はRaとなっている。

  • Do#=Di, Re#=Ri, Fa#=Fi, Sol#=Si, La#=Li

  • Re♭=Ra, Mi♭=Me, Sol♭=Se, La♭=Le, Ti♭=Te

 

英語をネイティブのように話せて海外でも演奏活動を行うつもりの人は欧米式のドディレリ唱法をマスターすると良いだろう。ところが、この欧米式のドディレリ唱法は日本人にとって致命的な問題がある。それは、Ri(=Re#)とLi(=La#)の区別、ReとLe(=La♭)の区別、Ra(=Re♭)とLaの区別だ。つまり日本人が不得意とするLとRの発音の区別が持ち込まれているので、普通の日本人向けの方法とは言えない。プロ向きだ。

 

そこで、素人にも簡単に扱える簡便ドディレリ唱法をマスターすることにした。まずシャープやフラットが付かない階名については子供の頃から慣れ親しんできたドレミファソラシを継続したい。だからシはTiとはしない。次にド♯とレ♭は同じ音になるので、このように同じ音になる音階に複数の呼び名を付けることを止める。すると、ドレミファソラシに5つの音の呼び名を加えれば完了となる。それらの音いついては、既存のドディレリ唱法になるべく合わせるようにする。その結果、次のようにした。

  • Di=(Do#=Re♭), Ri=(Re#=Mi♭), Fi=(Fa#=Sol♭), Sa=(Sol#=La♭), Te=(La#=Ti♭)

 

一般的にドディレリ唱法ではシャープとフラットで別々の名前を付けて歌うようだ。ドディレリ唱法には幾つも派生した表現があり、図とは違う階名を使っていることもあるので他の人と会わせる場合は確認しよう。

海外で活動する気があれば、欧米版のドディレリ唱法をマスターしよう。しかし、LとRの区別は悩まされると思う。

簡易版のドディレリ唱法は日本人にも馴染めると思う。#/♭音については、USバークレー式の♯音を採用したが、ソ♯についてはSiもLeも不適切なので新規にSaを採用した。ラ♯についてもLiではRiと混同するのでTeの方を採用した。

You'd be so nice to
3. You'd be so nice to come home to

 

名プレーヤーの演奏が数多く残るCole Porter作曲の"You'd be so nice to come home to"を階名で歌う練習をする。この曲にはシ♭やファ♯、レ♯などが多く出現し、ラ-ラ♯-シが続いたりするので簡易版ドディレリ唱法の効果が良く出ている。ヤマハの教則本では、第一冊目の最後の方に掲載されている。ちなみにサックスを始めて6ヶ月目にヤマノミュージックサロンの発表会があり、この曲に挑戦をした。練習の甲斐があって、なんとか無事演奏をすることができた。発表会では楽譜通りの演奏だったが、今後は徐々にアレンジを加えたりアドリブに挑戦したりして、この曲と末永く付き合うつもりだ。

 

原曲の楽譜を見ることにする。ここでは説明のために楽譜に階名を記載したが、実際に楽譜に階名は書かない。なぜならば音符を見て頭の中で階名に変える練習をするので、文字は見てはいけないからだ。さらにエキスパート・スキームになると音符を見て何も考えずにサックスでその音を出すようになる。スキームの最初のインプットが文字であってはならない。

 

階名で歌うときは声を出すことが重要だ。知らない曲の場合、楽譜を見ただけでは音程が掴めないので、事前に模範演奏を聴いておくのが良い。ただし、ジャズプレーヤーの演奏は原曲通りでないので、練習用に録音された音源があるとよい。歌っていると音程も覚えるし、それに加えて喉の開き方や息の勢いなどサックスを吹くときにも必要となるスキルも鍛えられる。よくサックスは歌うように吹けと言われるが、歌うことは正にサックスの上達に繋がる練習方法だと思う。

この曲では、固定ドで階名を振ったときにシャープとフラットが付く音符として、

  • ファ♯

  • レ♯

  • ラ♯ = シ♭

が使われている。楽譜のは歌詞の部分に階名を振ってみたが、普段の楽譜には決して階名を振ってはいけない。練習では楽譜の音符のみを見て頭の中で階名に変換して歌う。

 

階名をUSバークレー式と簡易日本式の両方の唱法を併記してみた。3段目のファ♯-シ-レ♯のところがUSバークレー式だとLi Ti Riとなり日本人にとっては発音が難しい。

この曲は四分の四拍子、つまり1小節が四分音符4つ分の長さになっている。そして1コーラスが32小節からなる標準的な曲だ。ところが先頭の「ミフィ」の部分が四分音符2個で構成されている。この部分はアウフタクトと呼ばれる部分で助走みたいなものだ。アウフタクトを除いた小節を数えると32小節になっている。楽譜を分かりやすくすることだけを考えると「ミフィ」を1小節の頭にすればと思うが、その後の「ソ」が一拍目になった方がリズム的に自然な演奏になる。このようにアウフタクトのある楽曲は多いので、入りのタイミングも慣れるようにしよう。

 

私の好きなArt Pepperの演奏は、楽譜通りには全然吹いていない。例えば出だしのアウフタクトのところもミフィではなく、(テ)シミフィと吹いている。その後のソも全音符ではなく2分音符の長さになっている。Art Pepperがレコーディングしたとき、この曲の正確な楽譜を持っていたのではなく、「だいたいこんな感じ」というアバウトな感覚で演奏したそうだ。初心者にとっては楽譜通りに吹けるようになる事が基本なのだが、それだけではジャズのフィーリングは出せない。技量がある程度のレベルに達したら、このギャップを乗り越える練習が必要になるだろう。

【工事中】

続く

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