
JAZZ Life始まり編 (2)
5. ジャズへの誘い
わたしとジャズとの付き合いは長い。最初に音楽を好きになったのは中学生のころで、まだジャズを知らなかった。そのころに初めてラジカセを買った。今ではラジカセという言葉自体が死語になっているが、当時の中学生にはカセット付ラジオが今日のスマホのような存在だった。そしてラジオで歌謡曲ではなくポップスを聴くことが流行りだった。最初に好きになった音楽は、Gladys Knight & the PipsのMidnight Train to Georgiaという曲で1974年のグラミー賞のBest R&B Performance by a Duo or Group with Vocalsを獲得している。そこからアフリカ系アメリカ人の音楽に傾倒するようになった。
ラジオを聴く習慣がつくと色々な音楽が流れるのでジャズを耳にする機会もあった。その頃はジャズについて未だ良く知らなかったのでビバップがジャズだと認識していた。そして正直な話、ジャズはノイジーな音楽にしか聞こえなかった。そんなあるとき、ラジオから流れるLouis Armstrongの演奏が心に響いた。そのトランペットの音色は楽器ではなく、まるで肉声のように聞こえてた。それからジャズについて興味を持ち、大学生のころには一端のジャズファンになっていた。
わたしの学生時代、当時のジャズのムーブメントはフュージョンと新主流派だった。大学の近くの閑散としたジャズ喫茶で珈琲一杯で何時間もねばった。そのジャズ喫茶はお客さんがめったに来ないことろだったので長居することができ様々なレコードをリクエストした。一般的にジャズ喫茶のオーナーには拘りを持っているひとが多い。そこの拘りはBillie Holidayとヨーロッパ系のフリージャズで、当時売れていたミュージシャンなどはコマーシャリズムと言いきっていた。そのように拘りの強いお店だったのでマイナーな店にもかかわらずアメリカの大物フリージャズマンが来日した時に演奏を行い、生で聴くことができた。なんと山下洋輔さんも観客として来ていた。
わたしの実家のある街のジャズ喫茶にはライブハウスがあり、ほぼ毎日ライブ演奏を行っていた。わたしはそのライブハウスに毎週のように通っていた。そのころのわたしはピアノが好きで、当時そのライブハウスには太田寛二さんや清水くるみさんが定期的に出演していた。太田さんは今でこそ大御所ピアニストになっているが当時はまだ学生でBud Powellばりのタッチで弾けた演奏をしていていた。グランドピアノの弦を頻繁に切るオーナー泣かせの若者だった。やはりライブハウスでの生の演奏にはジャズの醍醐味が詰まっている。ビックネームのレコードやコンサートホールでの演奏を聴くのもよいが、ライブハウスでのジャムセッションにはプレーヤーの一瞬の煌めきがほとばしる瞬間がある。薄暗いライトの下で聴衆と演奏者が一体化するジャズファンならでの贅沢な時間だ。
ジャズを知ったことで生活の中に味わいのあるアクセントが加わった。しかし、それでもわたしは聴く側であって演奏する側ではなかった。そして、その状況は長く続くこととなった。もし子供のころにピアノを習っていたらジャズを弾くようになったかもしれないなどと思うこともある。しかし「もしも」を言えば切りがなく意味のないことだ。常に現実は今なのだ。今ある状況のなかで何をしたいのか。以前は長いことピアノの音を中心に聴いていたので特にサックスが好きということではなかった。その頃はKeith Jarrettがお気に入りのピアニストだった。止めどなく続く彼のピアノソロによる即興演奏に酔いしれていた。
それでも他の楽器のレコードも分け隔てなく聴いていた。そこで出合ったレコードが1956年に発売されたArt PepperのModern Artだった。とくに最初のBlues inとラストのBlues outではベースのBen Tuckerとのデュオによる演奏でArt Pepperが珠玉のインプロビゼーションを繰り広げている。その一枚がわたしのベストアルバムとなり、アルトサックスを吹いてみたいという気持ちが芽生えていった。今サックスでジャズを吹いてみたい。一瞬の閃きをアドリブにのせて開放してみたい。ジャズファンになってから30年以上経ってしまったが、演奏する楽しみに挑むことにした。

わたしが最初に好きになったR&Bのミュージシャンだ。持って生まれたものなのか、アフリカ系アメリカ人の音楽フィーリングには脱帽する。Gladysのアルトで心に響く歌声は素晴らしい。もうグループとしての活動を見ることはできないが、Pipsのコーラスはステップも楽しくお洒落だ。やはりPipsと一緒のGladysがいい。わたしのお気に入りの曲はこれだ。
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Niether one of us
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I heard it through the grapevine
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Best thing that ever happenned to me
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I've got to use my imagination
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Midnight train to Georgia

わたしがジャズに興味を持つきっかけとなったのがLouis Armstrongだ。大きく目を開いて笑顔を振りまきながらトランペットで歌う。彼は並外れた優しい人柄によって差別や偏見と闘ってきたのだろう。アメリカの宇宙飛行士が宇宙に出て地球を眺めながら聴く曲が彼のWhat a wonderful worldだそうだ。彼ほど人に幸せな気持ちを起こさせられるミュージシャンはいないのではないか。Louisは音楽を超えた存在だ。アメリカの歴史の中ではMartin Luther King, Jr.牧師と同じくらい人々に影響を与えた人なのではないかと思う。

John Coltraneがジャズを行き着くところまで突き詰めてしまった後、ジャズは多様化へと向かうのだが、その世代のジャ ズピアニストはChick Corea, Herbie Hancock, McCoy Tyner, Joe Zawinulなどスーパースターが多く存在する。Keith Jarrettもその中の一人だ。彼の個性はピアノソロによる即興演奏で顕著だ。即興だが混沌としたフリージャズとは違いメロディアスな演奏で聴衆を魅了する。Solo Concerts, The Keln Concert, Staircaseあたりのアルバムが良い。その他にもスタンダードの名演やヨーロピアンカルテットによるリリカルな演奏など多彩な才能を発揮している。

Art Pepper (1925/9/1 - 1982/6/15)は1950年代から活躍し、ウエストコースト派と呼ばれていた。彼の代表作としてはMiles Davesのリズムセクションと演奏したArt Pepper Meets the Rhythm Sectionが最も有名だが、わたしはこのModern Artが最も気に入っている。当時のジャズミュージシャンにありがちなことだが、彼は麻薬中毒になり演奏活動を一時停止している。彼の名盤というものは麻薬中毒の前のものが多く、Modern Artもそのひとつだ。
復帰後も良い演奏をしていて、RoadgameというアルバムにあるEverything happens to meがお薦めだ。Frank Sinatraが歌った有名な曲だが、ついていない男の悲哀がArt Pepperの演奏によって引き出されている。
6. 楽器選び
レッスンに向けて、わたしは最初から自分のアルトサックスを持とうと考えた。サックスを習うということはいつかはサックスを購入することになる。それならば最初から自分の楽器を持てば愛着も湧き練習にも身が入ると思った。なにより手元にサックスがあるので、音を鳴らさない練習なら何時でもできるようになる。どのメーカーのどのモデルにするかを決めなるのは簡単ではない。なにせ高価な買い物なので後悔のないようにしたい。
サックスでジャズを吹きたい人の憧れはセルマーだ。その頂点がビンテージになるアメリカンセルマー(アメセル)のマークⅥだ。マークⅥでも製造番号によってプレミアムが異なり驚きの値段がつくものもある。プロミュージシャンにはアメセルを持っている人も多く、日本のジャズ界では一つのステータスとなっている。しかしビンテージ物は上級者の領域なので、まだ吹きこなす実力もない初心者としてはビンテージものには手を出すつもりはない。
ビンテージではなくても中古という選択もある。楽器の寿命は長いので中古市場が確立している。中古の魅力は安い価格で良い楽器を手に入る可能性があるということだ。その逆に質の悪い楽器を購入してしまう恐れもある。中古楽器というと、2004年に公開された矢口史靖(しのぶ)監督のスイングガールズという映画で主人公の高校生が中古楽器を手にしてスイングを演奏するのだが、楽器がぼろくても良い演奏をしていた。逆に高校生を教える教師がピカピカのアルトサックスを持っていてとにかくジャズに詳しいのだが、自分が下手な事を隠して高校生にもっともらしい能書きを垂れていた。自分はできないが理論だけは詳しいのはジャズ通にはありがちなエピソードだ。わたしもそうならないように練習に励もう。
中古品は前の使用者の癖がついているので要注意と言われるが、実は中古品には掘り出し物が結構ある。例えば良い楽器を買ったのだが上手く吹けずに飾っていただけのものとか、有名ミュージシャンがちょっと吹いて自分のフィーリングに合わなかったものなどだ。そういう中古サックスを探し出せたらラッキーだが、探す能力もない初心者には無理だろう。予算の都合で中古を購入する場合は絶対に一人では選ばず信頼できる上級者に試奏して選んでもらうべきだ。
さて新品についても選択肢は広い。こちらも予算の都合で安価なものを求めるのなら3万円ぐらいで入門セットがある。わたしは手にしたことがないので評価はできないが、サックスを吹くようになると直ぐに本格的なサックスを欲しくなるだろうと思い検討対象から除外した。ジャズファンで好きなプレーヤーに憧れてサックスを始めようとする人が入門セットで満足することはないだろう。
新品についてもセルマーの人気は高いが値段も高い。セルマーを購入するならば50万円を超えるの予算を覚悟しよう。それと予算についてだが、サックス以外にも色々と出費があることを忘れてはならない。音を追求するためにマウスピースを買い替えるだろうし、音程の確認のためのチューナーや録音機、リードの探索や日々の練習場所の確保など色々だ。したがって予算枠を全てサックスに当てるのではなく余裕を持つようにしよう。
わたしもセルマーへの憧れはあるが予算オーバーのために検討対象から外した。また実際に手にとってしまうと欲しくなってしまうので試奏も行わなかった。試し吹きだけなら只だが、只では終わらない。セルマーだけでなく他のブランドでも50万円以上の上位機種は評判も良く垂涎の的だ。しかし安くても良いサックスはたくさんある。分相応という言葉があるが、上位機種を持ってもその良さを引き出す演奏力がなければ楽器が可哀そうだ。宝の持ち腐れという言葉も浮かんでくる。上位機種については実力がついたときのお楽しみに取っておくことにする。
それではどの程度のものだったら分相応なのか。それはサックスの練習を開始してから1年後の自分を想像してみるといい。その時にサックスを吹いている自分がしっくりいっているだろうか。1年経ったらそのサックスは自分に不釣り合いでなくなっているだろうか。また、その先何年も使い続けられるものであってほしい。わたしは20万円台のアルトサックスに絞り込むことにした。
メンテナンスを考慮すると日本メーカーのサックスが良いだろう。幸い日本にはヤマハとヤナギサワがあり、どちらのサックスも品質が良く世界的に高い評価を得ている。そこでヤマハとヤナギサワで20万円台のサックスだったら満足いくものが手に入るだろうと思った。実はヤマハならばYAS-82Zがジャズ用カスタマイズモデルということで注目していた。しかし残念なことに予算をオーバーしているので、泣く泣く諦めた。そのかわりヤマハからはYAS-62をノミネートした。YAS-62もヤマハを代表するモデルで評判もいい。
ヤナギサワのアルトサックスは2014年にモデルチェンジを行いWOシリーズになった。このなかでWO1とWO2が予算内のモデルだ。両者はサックスの素材に違いがある。普通サックスは真鍮あるいはブラスと言われる銅合金でできている。このブラスは銅と亜鉛が7対3の割合が普通だ。WO1は通常のブラスでできていて、WO2はブロンズブラスでできている。ブロンズブラスは銅の比率が8割ぐらいと高く、そのために赤みがかった色をしている。問題は音の違いだが、色の違いから音の違いを連想しても良いかもしれない。ブラスは明るく、ブロンズブラスは深みがあるそうだ。ヤマハYAS-62はブラスなので、ヤナギサワからはブロンズブラスのWO2をノミネートした。
ヤマハとヤナギサワの2つのモデルから自分に合ったモデルを決めるために実際にサックスを吹いて比較することにした。しかし自分一人での選定は危険なので、サックス講師の高橋先生に選定のサポートをお願いした。実際に試奏する楽器についてはヤマノミュージックサロンに併設する山野楽器に相談した。ヤマハYAS-62はどこの楽器店にも置いてある定番商品だ。ヤナギサワのWO2は取り寄せになるのではと思っていたのだが、店員さんとショーウィンドウの前で話をしていたらちょうどショーウィンドウのなかにWO2が置いてあり「WO2入荷しました」というポップが貼ってあるではないか。
ということで体験レッスンをした次の週に早くもサックスの選定を行うこととなった。そしてショーウィンドウの中のYAS-62とWO2には選定中という札が掛けられた。


選定中
ヤマハ アルトサックス主要モデル
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YAS-280, 380, 480
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YAS-62
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YAS-82Z
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YAS-875, 875EX
ヤナギサワ アルトサックス主要モデル
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WO1
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WO2
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WO10
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WO20
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WO37
7. サックス試奏
サックスの選定は通常のレッスンルームで行われた。体験レッスンと同様に予約した時間の10分前にヤマノミュージックサロンのラウンジに行った。定刻になると高橋先生が出てきて挨拶をされた。最初からサックスを購入するということで少なくともやる気のある事だけは伝わった気がする。レッスンルームに行くとそこには2つのサックスがサックススタンドに置かれていた。WO2は赤みがかっているので見た目の違いは明らかだ。
このクラスのサックスだとインターネットに吹き比べのビデオがたくさんアップされている。それらを参考のために 見たのだが、素人からすると全て綺麗に聞こえてしまい優劣はつかなかった。演奏者はニュアンスの違いを説明してくれるのだが、そのニュアンスを作りだすよ うな吹き方をしているのではないかと穿った見方をしてしまう。良い音が出るかということは結局のところ楽器よりも演奏者の力量に依存してしまうのだ。弘法筆を選ばずだが、その域に達していないわたしはサックスを選ぶのであった。
自分にとってはこれから購入するサックスを決めるという重大な局面となるのだが、客観的にはこの時点で既にサックス選定が終わっているといえる。それはどちらを選んだとしても立派なサックスであることに間違いないからだ。それに中古ではないので機械的なトラブルの心配もない。傍から見るとどちらを選ぶかは好みの問題にしか過ぎないだろう。しかし、本人としては悩ましい選択なのだ。現実問題として体験レッスンを一度受けただけの超初心者が2つのサックスを試奏してそれぞれの良さ見分けることはできない。しかしそれでもなお自分で決めることが重要なのだ。分からなくても自分の感覚を信じることが音楽をやる上では大切だと思う。
さて2つのサックスを交互に吹いて感触を確かめるのだが、マウスピースは同じものを使いサックスを持ち替えるたびにマウスピースをセットしなおす。最初は体験レッスンの流れと同じことを繰り返した。リードを口にくわえることによって湿らせ、マウスピースにセットする。アンブシュアの作り方や息の吐き方を復習する。そしてYAS-62から試奏を始めた。
まずサックスを持った時の感触だが、YAS-62の方が手に馴染んだ。その理由は体験レッスンにある。体験レッスンで使用するサックスがヤマハ製で手に感覚が残っていたために同じヤマハのYAS-62がしっくりきたものと思う。そう考えるとレッスン用楽器を音楽教室に展開しているヤマハのマーケティング戦略は効果を上げているのではないか。もちろんその背後にユーザーの期待に応えられる高品質な商品があることが裏付けとなっている。
次に音の違いをロングトーンで確認するのだが、これがまたよく分からない。まず問題はサックスを持ち替えるときにマウスピースをくわえ直すことだ。超初心者のわたしにとって同じサックスでもマウスピースをくわえ直すたびに違った音になるのだ。つまり、まだ自分の音出しのスタイルが決まっていない状態なのだ。試奏者がこのレベルだと吹き比べは厳しい。ただ最初にWO2を吹いたときの音が予想以上に大きく鳴ったので気をよくした。しかし2つのサックスを何度も持ち替えて吹いていると違いが分からなくなってしまった。さあ、どうするか。
俗っぽい観点からの検討もしてみた。見た目としてWO2は赤みを帯びていてキーの表面が貝殻を使っていたりサムフックとサムレストが金属になっているところが嬉しい。ブランドイメージとしてはヤマハは良くまとまった優等生で、ヤナギサワは個性的な求道者というイメージだ。しかしそのイメージも誰かの受け売りにすぎない。
そろそろ決定をくださなければならない。これからサックスを始めようとする人にとって自分はこの楽器にしようという潜在意識がどこかにある。初心者が試奏を行う意義は楽器を判別するのではなく、その潜在意識を明確化することによってこの楽器で演奏するという気持ちをはっきりさせることではないだろうか。正しい選択なんてないのだから肝心なことは自分で決めるということだ。結局、明確な判断基準は持てなかったが個性のあるヤナギサワのWO2にすることにした。
選定作業が終わり、今度は楽器店のカウンターへと移動し購入手続きだ。ヤマノミュージックサロンの生徒が山野楽器店でサックスを購入すると割引があるので、それも楽器店に付属する音楽教室に通うことのメリットである。まあ楽器店からすれば自分のお店で楽器を購入してもらうために音楽教室を運営しているともいえる。
購入するサックスの確認し、店員さんが手入れの仕方を教えてくれた。楽器店の店員さんにはサックスの上級者がいるので色々と相談できる。楽器メンテナンス用の備品も購入しよう。サックスには専用のマウスピースがついているが、レッスン用としてヤマハの4Cを購入した。これはレッスンで標準に使っているマウスピースで初心者でも吹きやすいモデルだ。実はマウスピースについては1ヶ月後に拘りの逸品を買うことになる。しかしまずは吹きやすいマウスピースで慣れることとする。
リードも一箱購入した。これもレッスンで標準につかっているバンドレンのトラディショナル2.5だ。リードについてもいずれ試行錯誤を行うようになるのだが、まずは標準のもので練習に励もう。
8. サックスの手入れ
サックス選定の試奏のときに高橋先生からサックスの初期調整を進められた。ピアノについて調律師に定期的に調律してもらうのと同じように、サックスについても定期的にメンテナンスを施す必要がある。その初期調整についてヤナギサワ専門のメンテナンス店であるヤナギサワ・クロッシュへ行くことを薦められた。実は高橋先生もヤナギサワのサックスを使用していて、クロッシュに予約する時に先生のお名前を伝えるとクロッシュの人も心得ているようで快く対応してくれた。
ヤナギサワのサックスWO2を購入して2日後に新宿にあるクロッシュの店舗に向かった。行ってから気づいたのだがクロッシュが入っているビルは新宿ピットインがあるところだった。だいぶ昔の事だが、新宿ピットインがまだ紀伊国屋書店の裏にあったころ何度も足を運んだ。懐かしい想い出が蘇った。
持ち込んだWO2は新品なので不具合は全く無いのだが、リペアスタッフは隅々まで丁寧に確認してくれた。最後にサックスをタンポを閉めた状態で仕舞うためのコルク片を9つ用意してくれた。サックスのタンポには常時閉まっているものと開いているものがあり、サックスを仕舞っておくときに閉じた状態にしておくのが望ましい。U字管からベルにかけてある大きなタンポは円柱型のコルクで押さえ、左手付近のタンポを閉めるために三角形のコルク、そして三角形のコルクに楊枝を刺したものを右手付近のタンポを閉めるためにキーのシャフトへ挟み込む。全てのタンポを閉めた状態にしておくことで、演奏時に息漏れが起こらないようにケアしている。
サックスの調整は年に一度は実施した方が良い。楽器を購入した山野楽器でも定期メンテナンスを行ってくれるのだが、購入したものがヤナギサワの楽器なので今後もヤナギサワの専門店であるクロッシュにお願いするとしよう。
日頃の手入れについてはサックスの入門書に書いてあるように基本は吹き終わった後に水分を拭き取ることだ。スワブという布を管のなかに潜らせて内部の水分を除き、専用の水取り紙でタンポ内側の水滴をとる。サックス上部の常時閉まっているタンポには水が溜まりやすいので重点的に行う。初心者のうちはサックス上部のタンポを開くことはないので、どのキーを押せばタンポが開くのか分からなかったが、この作業は演奏するごとに毎回行うことなので直ぐに慣れる。マウスピースについてはティシュペーパーで水分を拭き取り、たまに水洗いをする。
サックスの手入れについては完璧だ。サックスを汚さないために演奏前は必ず歯を磨くようにしている。しかしメッキのはげたビンテージのサックスを見ると思うのだが、往年のジャズプレーヤーは楽器を丁寧に扱っていたのだろうかという疑問がある。薄暗いクラブでアルコールを浴び煙草をふかしながら演奏するシーンを思い浮かべると、楽器にとっては過酷な環境だったのかもしれない。